「過払い金」コクドが自分勝手に株主総会を実施?

同月
戊辰
リサイクル

主文

1本件申立てを却下する。
2申立費用は債権者の負担とする。

事実及び理由

第1申立て

債務者は,平成17年11月下旬を会日とする持株会社設立を目的とする株式移転又は株式交換を会議の目的たる事項とする株式会社コクド(本店所在地・東京都渋谷区神宮前六丁目35番1号)の臨時株主総会を開催してはならない。

第2事案の概要

1本件は,6か月前より引き続き株式を有する株式会社コクド(以下「コクド」という。)の株主(株式の準共有者で権利行使者の指定を受けた者)であると主張する債権者が,コクドの代表取締役(株主総会の招集権者)である債務者に対し,1真実の株主に招集通知を発送せずに株主総会を開催することは,招集手続の法令違反に当たり,2真実の株主について債権者と株主名簿上の株主が株式持分権確認訴訟において係争中であるにもかかわらず,後記本件再編スキームを進めることを目的に株式移転又は株式交換の決議のための株主総会を開催することは,善管注意義務違反にあたるなどとして,商法272条に基づく取締役の違法行為差止請求権を本案として,平成17年11月下旬を会日とする持株会社設立のための株式移転又は株式交換を会議の目的たる事項とするコクドの臨時株主総会の開催禁止の仮処分命令を求めている事案である。
債権者は,本件申立てにおいて,コクドの株式(以下「コクド株」という。)の96パーセントが遺産分割未了の亡A(以下「亡A」という。)の遺産であるとして,それらの株式については債権者が33分の2の持分を有していると主張している。
また,それらの株式は,1遺産分割協議書に遺産分割の対象財産として記載されており,亡Aの名義となっていた株式(以下「本件遺産株」という。)及び2亡Aの遺産でありながら,亡A死亡当時に他人の名義を借用していた株式(以下「本件名義株」という。)から構成され,それらの株式の中には,3別訴の株式持分権確認訴訟において被告であるB(以下「B」という。),C(以下「C」という。)及びD(以下「D」といい,これら3名を併せて「B外2名」という。)が債権者が各33分の2の持分を有することを認諾した合計49株(Bにつき17株,C及びDにつき各16株)(以下「本件認諾株」という。)があると主張している。
2前提となる事実
後掲の各疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,次の事実が一応認められる。
(1)当事者等
ア債権者は,コクドの創業者である亡Aの子である。
亡Aは,昭和39年4月26日,死亡した。
亡Aの相続人は,E,F,G,H(以下「H」という。),I,J(以下「J」という。),K及び債権者であり,その相続分は,Eが3分の1,F,G,H及びIが各33分の4,J,K及び債権者が各33分の2であった。
(甲8の4,審尋の全趣旨)
イコクドは,大正9年3月25日,箱根土地株式会社として設立された株式会社であり,昭和19年2月10日,国土計画興業株式会社に,昭和40年6月1日,国土計画株式会社に,平成4年7月1日,株式会社コクドに商号変更した(以下商号変更前についても「コクド」という。)。
コクドは,非上場会社であるが,平成16年12月まで上場会社であった西武鉄道株式会社(以下「西武鉄道」という。)の71.33パーセント(間接保有分を含む。)の株式を保有し,株式会社プリンスホテル(以下「プリンスホテル」という。)の100パーセントの株式を保有するなど,多数の関連会社を擁する西武グループを統括する持株会社として位置している。
(甲1,2,5,審尋の全趣旨)
ウコクドの資本の額は,昭和15年2月10日,848万7500円に,昭和19年10月20日,1249万5000円に,昭和36年8月25日の有償増資により2499万円(発行済株式総数49万9800株)に,昭和38年7月10日の無償増資により7497万円(発行済株式総数149万9400株)に,昭和48年12月27日の有償増資により1億0495万8000円(発行済株式総数209万9160株)に変更され,平成16年7月27日,1000株を1株とする株式併合の結果,発行済株式総数は2099株に変更された。
(甲1,2,5,審尋の全趣旨)
エ債務者は,コクドの代表取締役である。
(甲5)
(2)本件遺産株
亡Aの死亡時において,亡A名義であったコクド株は23万8518株(株式併合前)であった(本件遺産株。
なお,平成16年7月27日の株式併合により,現在は238株相当となる。)。
(甲47)
(3)本件認諾株
債権者,H,L及びM(以下これら4名を併せて「債権者外3名」という。)は,平成17年2月14日,B外2名を被告として,Bとの間で,現在同人が株主名簿上の株主となっているコクド株17株につき,Cとの間で,現在同人が株主名簿上の株主となっている16株につき,Dとの間で,現在同人が株主名簿上の株主となっている16株につき,株主名簿上の株主であるB外2名は名義貸しをしている者であり,債権者外3名が真実の株主であった亡Aの遺産を相続して準共有株主としての地位を取得したと主張して,それぞれ債権者が33分の2,H66分の19,Lが132分の19,Mが33分の2の持分を有することの確認を求める訴訟(東京地方裁判所平成17年(ワ)第2673号,同年(ワ)第4144号)を提起した。
上記株式持分権確認訴訟の同年3月17日の弁論準備手続期日において,B外2名は,債権者外3名の上記請求を認諾した(本件認諾株は,この合計49株)。
(乙1,甲55)
(4)権利行使者の指定
債権者は,平成17年3月14日ころ,債権者外3名が作成した亡Aの遺産である準共有株式につき債権者を代表者と定める旨の共有株主代表届をコクドに提出した。
(甲54)
(5)第1回名簿書換請求
ア債権者は,コクドに対して,平成17年3月18日,本件認諾株の真実の株主は亡Aであり,債権者外3名が亡Aの遺産である本件認諾株を相続して準共有株主としての地位を取得したと主張して,上記株主持分権確認訴訟の認諾調書正本及び相続を証明する資料を添付して,本件認諾株の名義書換請求(以下「第1回名義書換請求」という。)をした。
(甲5
6)
イコクドは,同月25日,第1回名義書換請求について,本件認諾株は亡Aの相続財産ではないこと,別訴の認諾調書の既判力は,別訴の訴訟当事者ではないコクドにはその効力は及ばない,債権者の主張によれば,B外2名は無権利者であり,無権利者が債権者の株主権を認めたことには実体上何らの意味もないとの理由で拒絶する旨回答した。
(甲5
8)
(6) 第2回名簿書換請求
アB及びCは,平成17年8月17日,債権者と共同して本件認諾株の名義書換請求(以下「第2回名義書換請求」という。)をした。
(甲73,74)
イコクドは,同月30日,第2回名義書換請求について,B及びCは株主ではないと主張しており,商法206条ノ2第2項1号の「株主」には当たらない,B及びCと債権者との間に株式の移転はなく,商法206条ノ2の「株式の移転」には当たらないとの理由で拒絶する旨の回答をした。
(甲75)
(7)西武グループの事業再編スキーム
ア西武グループ経営改革委員会は,平成16年11月,コクドの業務執行に関する重要事項の審議,助言又は勧告を行うことを目的として,コクドの取締役会及び社長の諮問機関として設置されたものであり,平成17年3月,西武グループの経営改革に関する答申を行った。
これを受けて,西武グループの再編スキーム(以下「本件再編スキーム」という。)が策定され,平成17年8月12日付けで公表された。
本件再編スキームは,西武グループを大きく西武鉄道を中心とする鉄道・沿線関連事業会社とコクド及びプリンスホテルを中心とするホテル・レジャー事業会社に二分し,その上に持株会社を置き,西武鉄道,コクド及びプリンスホテルを一体として再生しようとする計画であり,これにより,グループ一体運営によるグループ事業価値の増加及び収益力の回復を図ることを目的とするものである。
本件再編スキームの具体的手法は,1コクドの株式を株式移転してオーナー等持株会社を設立し,コクドの株式保有と事業運営を分離した後に,投資ファンドを割当先として増資をし,2プリンスホテルがコクド及び西武鉄道のホテル事業を吸収合併し,3プリンスホテルが中心となって株式交換・株式移転を繰り返して,最終的には西武グループ持株会社が,西武鉄道を中心とする鉄道・沿線事業会社とコクド及びプリンスホテルを中心とするホテル・レジャー事業会社の2社を統括する体制にするというものである。
(甲70,71,乙6,60,審尋の全趣旨)
イコクドは,平成17年3月期の損益計算書によれば,当期損失は266億3000万円で,同期の貸借対照表によれば,160億1500万円の債務超過となっている(ただし,資産・負債を時価評価した実質価値では債務超過になっていないとされる。)。
金融機関は,貸付先をそのリスクに応じて5つの債務者区分(「正常先」,「要注意先」,「破綻懸念先」,「実質破綻先」,「破綻先」)で査定しているところ,コクドの金融機関は,平成17年3月までに,コクドの債務者区分を「正常先」から「破綻懸念先」(今後,経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者)に引き下げた。
(乙60,83,審尋の全趣旨)
ウコクドの金融機関25社からの借入金は,長短借入金合計で3609億円余に及んでおり,コクドが各金融機関との間で平成17年3月から4月にかけて合意した融資残高維持期間は平成18年1月31日で終了する予定である。
(乙60,84,審尋の全趣旨)
エこのような状況下で,本件再編スキームは,平成18年3月31日までに最終段階までを実行し,組織再編を完了することが予定されている。
(甲70)
(8)本件株主総会の招集
債務者は,平成17年11月下旬を会日として株式移転の決議を会議の目的たる事項とするコクドの臨時株主総会(以下「本件株主総会」という。)を開催することとし,同総会の開催にあたっては,同年10月31日を基準日とする株主名簿上の株主に対して株主総会招集通知を送付して,当該株主に議決権を行使させようとしている。
(甲78,審尋の全趣旨)
3争点
(1)債権者の申立適格(債権者が6か月前より引き続き株主であること)ア本件認諾株の帰属
(債権者の主張)
本件認諾株は,亡Aの未分割の遺産であるから,債権者ら相続人が準共有しているものである。
これは,別訴株式持分権確認訴訟において,株主名簿上の名義人であるB外2名が,債権者外3名が本件認諾株の持分を有することを認諾していることから明らかである。
(債務者の主張)
本件認諾株は亡Aの未分割の遺産ではない。
別訴の認諾調書の既判力は,別訴の訴訟当事者ではないコクドにはその効力は及ばないし,株主でないことを認めたB外2名は無権利者であり,無権利者が本件認諾株について債権者の株主権を認めたことには実体上何らの意味もない。
イ準共有株主の権利行使者の指定について
(債権者の主張)
コクドに提出した共有株主代表者届を作成した債権者外3名は,準共有株主の一人であるJを被告として,別訴株式持分権確認訴訟を提起して係争中であり,Jに権利行使者の選定に参加する機会を与えても,選定の結果が異なる可能性は皆無であったことなどからすれば,本件においては,権利行使者の指定は有効である。
(債務者の主張)
共同相続人の9名中の4名,法定相続分(株式の準共有持分)中の合計132分の73(55.3パーセント)を有する準共有株主において,債権者を権利行使者として選定した旨の共有株主代表者届は,準共有者全員による権利行使者の選定協議を経ていないから,無効である。
ウ第1回名義書換請求
(債権者の主張)
コクドが債権者の第1回名義書換請求を拒絶した理由は,株券不呈示を理由とするものではなく,本件では,仮に,株券発行請求をしたとしてもこれを拒絶することは明らかであるから,名義書換請求に際し,株券の呈示は不要であること,コクドは,債権者の第1回名義書換請求を拒絶する一方,本件認諾株の株主名簿上の株主であるB外2名からの株主権の行使も拒絶しており,その拒絶理由には一貫性がないことから,コクドが債権者の第1回名義書換請求を拒絶したことは不当であり,債権者は,名義書換なしにコクドに対して株主としての権利を行使することができる。
(債務者の主張)
債権者は第1回名義書換請求の際,株券を呈示していないこと,株主名簿閲覧謄写仮処分命令申立事件の平成17年3月23日付け東京地方裁判所決定は,本件認諾株を含む本件名義株についての債権者の株主権を否定したこと,B外2名の請求認諾は第三者であるコクドには効力を及ぼさない上,債権者は,亡Aからの相続承継を主張しており,その主張によれば,本件認諾株についてB外2名は無権利者であったことになるのであって,無権利者がした請求の認諾には何の意味もないことから,コクドが第1回名義書換請求を拒絶したことは不当ではない。
エ第2回名義書換請求
(債権者の主張)
コクドが債権者の第2回名義書換請求を拒絶したことは不当であり,債権者は名義書換なしにコクドに対して株主としての権利を行使することができる。
(債務者の主張)
B及びCは,株主ではない無権利者であると自認している以上,株主名簿上の株主であるB及びCに株主名簿の資格授与的効力は及ばないから,商法206条ノ2第2項1号の「株主」には当たらないこと,無権利者であるB及びCとの間に商法206条ノ2の「株式の移転」があったとはいえないことからすれば,コクドが第2回名義書換請求を拒絶したことは正当である。
(2)債務者の違法行為
ア招集手続の法令違反
債権者は,下記(ア),(イ),(ウ)の株式について,会社に対して株主権を主張し得る準共有株主であり,債務者が,真実の株主である債権者に招集通知を発することなく,実質的権利を有しない株主名簿上の株主に招集通知を発することは,株主に対する招集通知を定めた商法232条1項に違反すると主張し,債務者は,下記(ア),(イ),(ウ)の株式について債権者は何らの権利も有しないから,債務者が債権者に招集通知を発しないことは,商法232条1項に違反しないと主張する。
(ア)本件認諾株
当事者の主張は,上記(1)と同じ。
(イ)本件遺産株
(債権者の主張)
債権者は,昭和39年10月に行われた遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)に債権者代理人として関与したN(以下「N」という。)に対して,遺産分割に関する代理権を委任してはいないこと,亡Aの相続財産には,遺産分割の対象となっていない本件名義株及び不動産があり,本件遺産分割協議は一部分割であることから,本件遺産分割協議は無効であり,本件遺産株は,債権者ら相続人が準共有している。
(債務者の主張)
債権者がNに対して遺産分割協議に関する代理権を委任した委任状が存在しており,本件遺産分割協議は有効に成立していること,また,本件名義株は存在しないし,債権者の主張の不動産はコクド又は西武鉄道所有であって亡Aの遺産ではなく,本件遺産分割協議は一部分割ではないから,本件遺産分割協議は有効であり,本件遺産株は存在しない。
(ウ)本件名義株
(債権者の主張)
亡Aは,生前にコクド株の買取りを進めており,最終的には発行済株式総数の96パーセントを所有するに至ったこと,かつて株主名簿上の株主であり,または,現在株主名簿上の株主であるO,P,Q,R,S,T,U,V,W,X,B,C及びDが,各名義(親族名義を含む)のコクド株について名義貸しであったことを自認していることからすれば,少なくとも,別件株式持分権確認訴訟においてその被告らがコクド株の株主名簿上の株主であることを認めている株式合計1526株は,本件名義株であり,亡Aの未分割の遺産であるから,債権者ら相続人が準共有しているものである。
本件遺産株及び本件名義株について,仮に債権者が名義書換請求をしたとしても,コクドが請求を拒絶することは明らかであり,コクド側で債権者ら相続人が真実の株主であることを証明することが容易である本件においては名義書換請求は不要である。
(債務者の主張)
亡A死亡当時,同人の株式は本件遺産株23万8518株しか存在していなかった。
昭和40年に従業員持株会である国友会(以下「旧国友会」という。)が設立されて従業員持株制度が発足し,役員又は従業員が株主となっているが,それらの各株主は,株主総会招集通知の受領,株主総会への出席,株式配当金の受領等を行っているから実質株主であるといえる。
また,債権者は,本件遺産株及び本件名義株について名義書換請求をしていないから,コクドに対し株主権を主張できない。
イ債務者の善管注意義務違反
(債権者の主張)
真実の株主が誰であるかが株式持分権確認訴訟において係争中であり,同訴訟において,債権者ら相続人が真実の株主であると判断される可能性が十分ある現時点において,株主名簿上の株主を株主として取り扱い,株式移転又は株式交換を含む本件再編スキームを行うことは,不合理であること,コクドは,株式移転又は株式交換を含む本件再編スキームの必要性について事実調査を一切行っていないか,又は仮に何らかの調査を行っていたとしても,オーナー等持株会社の設立は,コクドの大株主であるJのコクドに対する影響力を排除するという目的を達成するために,Jとは無関係の債権者ら相続人から,西武グループの中核企業たる事業会社としてのコクドの株主という地位を一時にして奪うものであるから,著しく不合理であること,本件再編スキームにおける西武鉄道株の評価額は明らかに不合理であることなどから,株式移転又は株式交換の決議のための本件株主総会を開催することは,取締役の経営判断の裁量を逸脱し,取締役の善管注意義務(商法254条ノ3)に違反する。
(債務者の主張)
本件株主総会の決議内容には何ら法令違反はなく,かえって,コクドの倒産を回避するためには本件再編スキームの実現が必須不可欠であり,これを実行せず,コクドを倒産に至らせることは,取締役の善管注意義務違反になる。
(3)会社の回復すべからざる損害
(債権者の主張)
株式移転又は株式交換により,真実の株主である債権者ら相続人が西武グループの中核会社で事業会社であるコクドの株主の地位を失うことそれ自体がコクドの損害であること,本件株主総会における株式移転又は株式交換の決議が無効になれば,出資を予定していたファンド及び関係各企業等から損害賠償請求が行われ,社会的信用を喪失し,本件再編スキームを実現するために用いた費用は無意味化することにより,コクドに重大な損害が生じること,本件再編スキームでは,コクドが保有する西武鉄道株の評価額を1株当たり700円前後とすることを前提として,コクドへの増資額が決定され,西武鉄道株の売却が行われようとしているところ,債権者及びHは,西武鉄道株の評価額を1株当たり1150円から1300円とする再編案の提案をしており,他のファンドからも1000円以上での提案があるから,西武鉄道株を低く評価して増資,売却することにより,コクドに損害が生じること,コクドは,現在,西武グループ各企業の頂点に立つ持株会社としてグループ全体に対する圧倒的な影響力を有しているが,本件再編スキームによれば西武グループ持株会社の子会社となり,コクドの企業価値が低下することから,真実の株主に議決権行使をさせないまま,本件再編スキームにかかる株式移転又は株式交換の決議を実行すれば,コクドには回復すべからざる損害が発生する。
また,コクドは実質的には債務超過にはなく,不採算事業からの撤退や資産売却によっても経営の健全化を図ることは可能であり,本件再編スキームを実施すべき必要性及び緊急性は認められない。
(債務者の主張)
本件株主総会における株式移転の決議(以下「本件株式移転決議」という。)は,本件再編スキームの第1段階に当たるところ,本件再編スキームが実現されれば,コクド及びコクドの株主も大きな利得を得られるが,本件再編スキームが実現できなければ,コクドは倒産の危機すらあり,本件再編スキームを実現すべき必要性及び緊急性があること,コクドに対する増資は避けられないところ,コクド単体に増資した場合と本件再編スキームに従ったオーナー等持株会社設立後に増資した場合とで,旧株主と投資ファンドの持株比率には変動はないから,株式移転により債権者ら相続人の現在の立場が大きく変わるということはないこと,西武鉄道株の評価額及びファンドの取得する持株比率は,本件株式移転決議とは無関係であること,本件株式移転決議は圧倒的多数によって可決される見込みであるから,万が一招集手続の違法が問われても「其ノ違反スル事実ガ重大ナラズ且決議ニ影響ヲ及ボサザルモノ」(商法251条)として裁量棄却されることから,本件再編スキームにかかる本件株式移転決議を行ってもコクドには回復すべからざる損害は発生しない。
(4)保全の必要性
当事者の主張は,上記(3)と同じ。

第3当裁判所の判断

1争点(1)(債権者の申立適格)について
(1)争点(1)ア(本件認諾株の帰属)について
債権者外3名が,コクド株17株につきBとの間で,16株につきCとの間で,16株につきDとの間で,株主名簿上の株主であるB外2名は名義貸しをしている者であり,債権者外3名が真実の株主であった亡Aの遺産を相続して準共有株主としての地位を取得したと主張して,それぞれ債権者が33分の2,Hが66分の19,Lが132分の19及びMが33分の2の持分を有することの確認を求めている訴訟(東京地方裁判所平成17年(ワ)第2673号,同年(ワ)第4144号)の平成17年3月17日の弁論準備手続期日において,B外2名が債権者外3名の上記請求を認諾したことは,前記認定のとおりである。
債務者又はコクドは上記訴訟の当事者ではないから,上記認諾の効力が直接債務者又はコクドに及ぶものではないが,債務者又はコクドは,従前,B外2名を株主と認めて株主権を行使させてきたところ,債務者又はコクド自身,株主名簿においてB外2名の名義とされている本件認諾株の株主が,B外2名又は債権者外3名以外の第三者であることを主張していないし,本件記録を精査しても,上記認諾がいわゆる馴れ合いとしてされたものであって,B外2名が真実の株主であることや,本件認諾株の株主がB外2名又は債権者外3名以外の第三者であることを認めるに足りる資料もない。
そうであれば,本件認諾株については,債権者外3名を含む亡Aの相続人が,法定相続分で準共有しているものと一応認めるのが相当である。
(2)争点(1)イ(準共有株主の権利行使者の指定)について
株式が数人の準共有に属するときは,準共有者は,会社に対して株主としての権利行使を行うためには株主の権利を行使すべき者1人を定め,会社に対して通知しなければならない(商法203条2項)。
この場合に,持分の準共有者間において権利行使者を定めるに当たっては,持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することができるのであり,準共有者の全員一致による必要はない(最高裁平成5年(オ)第1939号同9年1月28日第三小法廷判決・裁判集民事181号83頁参照)。
これを本件についてみると,債権者外3名は,共同相続人の9名中の4名であり株式の準共有持分中の合計132分の73(55.3パーセント)を有する準共有者において,債権者を権利行使者として選定した旨の共有株主代表者届(甲54)を提出したから,債権者の行った権利行使者の指定及び通知は有効なものということができる。
ところで,権利行使者の指定は持分の準共有者にとって極めて重要な手続であるから,原則として,全準共有者に対し,権利行使者の指定に参加し得る機会を与えることが必要と解される。
もっとも,本件においては,Jは,平成17年3月3日に証券取引法違反で逮捕,勾留されて以降,債権者から連絡を取れない状況であったこと,上記共有株主代表者届を作成した債権者外3名は,準共有者の一人であるJを被告として,別訴株式持分権確認訴訟を提起して係争中であり,Jが権利行使者の指定に賛成することは期待できない事情があったこと,債権者外3名及びJ以外の準共有者については,債務者による権利行使に反対する事情は見受けられないことを一応認めることができる。
そうすると,債権者外3名以外の準共有者が権利行使者の指定に参加していないことについてはやむを得ない事情があり,債権者外3名以外の準共有者に権利行使者の選定に参加する機会を与えても選定の結果が異なるとは考えがたいということができるから,本件の権利行使者の指定は,なお有効なものと解することが相当である。
(3)争点(1)ウ(第1回名義書換請求)について
ア商法205条1項が株式を譲渡するには株券の交付を要する旨規定し,同条2項が株券の占有者をもって実質上の株主であると法律上推定していることからすると,株式の譲渡により株主となったと主張する者が会社に対して株主名簿の名義書換請求をするときには,株券を呈示することを要するものと解される。
これは,株主が株券不所持の申出をしている場合であっても同様であり,株券不所持の申出をした株主がその株式を譲渡するときには,いったん会社に株券の発行を求めた上で(商法226条ノ2第4項),その株券を譲受人に交付し,譲受人は,その上で,当該株券を会社に呈示して株主名簿の名義書換えを求めるべきものというべきである。
これに対し,株主名簿上の株主が株券不所持の申出をしている場合において,株主が,株主名簿上の名義人は名義貸しをしている者にすぎず,自らが真実の株主であると主張して,会社に対して株主名簿の名義書換えを求めるときには,株主名簿上の名義人と真実の株主との間には株券交付を要する権利移転が存在せず,また,無権利者である名義人からは会社に株券の発行を求めることはできないうえ,株券の交付により株式が他に譲渡されていないことも明らかであるから,会社に対して株券を呈示することなく,自らが権利者であることを実質的に証明して株主名簿の名義書換えを求めることができるものと解するのが相当である。
そして,会社は,正当な権利者からの株主名簿の名義書換請求に対しては,これに応じて名義書換えをすることを要し,これを不当に拒否したときは,会社は,その請求者の株主資格を否認することができないものと解される(最高裁昭和39年(オ)第48号同41年7月28日第一小法廷判決・民集20巻6号1251頁参照)。
イこれを本件についてみると,B外2名は,コクドに対し,株券不所持の申出をしており,コクド株の株券を所持していないこと,債権者は,株主名簿上の株主であるB外2名は名義貸しをしている者であり,自らが真実の株主であった亡Aの遺産を相続して準共有株主としての地位を取得したと主張して,コクドに対して第1回名義書換請求をしているものであることからすれば,本件においては,債権者は,コクドに対して株券を呈示することなく,亡Aが真実の株主であった者であり,その権利を相続により取得したことを実質的に証明して株主名簿の名義書換えを求めることができるものと解される。
そして,債権者が別訴株式持分権確認事件の認諾調書正本及び相続を証明する資料を添付して第1回名義書換請求をしたことは前記認定のとおりであり,コクドは従前B外2名を株主として権利行使をさせており,当該株式について他に株主権を主張する者が考えられない本件においては,これらの添付資料をもって,債権者が株式を相続により取得したことの実質的な証明として十分であるといえる(なお,B外2名が債権者外3名の請求を認諾した後は,コクドは,B及びCの株券発行請求に対し,無権利者であることを理由にその請求を拒絶している。)。
したがって,コクドは,債権者の第1回名義書換請求を不当に拒否したものであり,コクドは債権者の株主資格を否認することができないものであるというべきである。
(4)まとめ
以上によれば,債権者は,6か月前より引き続き会社に対して準共有株主としての地位を主張し得るものと認められ,株主による取締役の違法行為差止請求権(商法272条)を本案とする本件仮処分の申立適格を有するということができる。
2争点(2)ア(招集手続の法令違反)について
(1)本件認諾株について
上記によれば,本件認諾株49株(約2パーセント)については,債権者はコクドに対して準共有株主としての地位を主張できることを一応認めることができる。
そうすると,債務者が,真実の株主である債権者に招集通知を発することなく,他方,実質的権利を有しない名義上の株主に招集通知を発することは,株主に対する招集通知を定めた商法232条1項に違反するものといわざるを得ない。
(2)本件遺産株について
ア亡Aが死亡時に本件遺産株を保有していたこと,亡Aは,昭和39年4月26日に死亡し,その相続人は,E,F,G,H,I,J,K及び債権者であったことは,前記認定のとおりであり,後掲の各疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,次の事実が一応認められる。
(ア)昭和39年10月7日に,亡Aの遺産分割協議のための会合が行われ,債権者及びIを除く相続人が出席し,同日付の遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)を作成した。
本件遺産分割協議書には,E,F,G,H,Iの代理人Y(以下「Y」という。),J,K,債権者の代理人Nが,昭和39年10月7日,亡Aの遺産について,不動産及び東京急行電鉄株式会社の株式はJが相続し,退職弔慰金,書画骨董,生命保険金,現金及び預金は分割して共同相続人らが相続し,本件遺産株は学校法人国立学園(以下「国立学園」という。)に寄付することを合意した旨が記載されている。
(甲43,47)
(イ)その後,Hは,本件遺産分割協議書に記載された退職弔慰金2440万7883円を受け取っており,債権者は,昭和39年当時米国に留学中であったが,昭和40年に米国から帰国後,Yから書画骨董の目録と小切手を受け取った。
また,本件遺産株は,昭和39年10月7日付けで,国立学園に寄付の手続がされ,国立学園からコクドに対し,同月30日付けで株式名簿書換請求がされた。
(甲47,52,乙24,25,27)
(ウ)H保管に係る本件遺産分割協議書には,債権者からNに対して遺産分割協議を行う代理権を授与する委任状は添付されていないが,コクド保管に係る本件遺産株の株式名義書換請求書には,債権者作成名義の昭和39年4月27日付け委任状の写しが添付されており,当該委任状には,債権者がNに対し,「昭和39年4月26日父A死亡により開始した相続につき,遺産分割その他相続に関する一切について」代理権を授与する旨が記載され,押印がされている(以下「本件委任状」という。)。
(甲43,乙22,27,審尋の全趣旨)
(エ)国立学園は,昭和47年3月25日,理事会において,当時理事長であったHを議長として,本件遺産株について「将来校舎改築資金として充当する為之を運用資金として消費収支差額の内,消費支出準備金に繰入れ」る旨決議し,寄付の額面と金利相当分を加味した額で西武グループに譲渡した。
(甲46,49)
(オ)本件遺産分割協議については,亡Aの死後約40年間,その相続人から異議が述べられたことはなかった。
(審尋の全趣旨)
イ本件委任状に関し,債権者は,本件遺産分割協議に同意したことはなく,亡Aが死亡した当時,米国の大学に在学中であり,昭和39年4月30日開催の亡Aの葬儀の直前に帰国したものであるから,本件委任状に記載されている同月27日に押印したはずがない旨を主張する。
確かに,本件遺産分割協議書において,債権者作成部分には債権者の押印がなく,その代理人とされるN名下に押印されたものであり,H保管に係る本件遺産分割協議書には,債権者からNに対する委任状は添付されていないことが一応認められ,これは債権者の主張に沿う事実ということができる。
しかしながら,コクド保管に係る本件遺産株の株式名義書換請求書には遺産分割協議を委任事項とする債権者作成名義の本件委任状の写しが添付されていること,その作成日付は債権者が米国滞在中であったが,我が国において,委任状の日付を遡らせて作成することもあながち特異なことということもできないこと,前記のとおり,本件遺産分割協議書に記載された退職弔慰金の分配,書画骨董の引渡し,本件遺産株についての名義書換等,本件遺産分割協議書に記載された履行が行われ,債権者も亡Aの遺産を受領していること,長年にわたり,債権者を含む共同相続人から異議を述べられたことはなかったことを併せ考えれば,上記債権者の主張は採用することができず,本件委任状は債権者の意思に基づいて作成されたものであり,債権者は代理人Nに対し,本件遺産分割協議について委任をしたものと一応認められる。
そうであれば,債権者及びIを除く相続人,Iの代理人及び債権者から遺産分割の代理権を授与されたと一応認められるNが集合して行った本件遺産分割協議は,有効に成立したものと認めることができる。
ウところで,遺産の一部につき遺産分割協議がされた場合においても,遺産全体の総合的配分に考慮しつつ,残余の遺産を追加分割することによって相続人間の公平を図ることが可能である限り,当事者間に成立した一部分割を当然無効とする必要はないというべきである。
そこで検討すると,本件名義株等が亡Aの未分割の遺産であり,本件遺産分割協議は相続財産の一部のみを対象とするもので無効であるとの債権者の主張は,本件遺産分割協議から約40年を経過した後になされたものであること,本件遺産分割協議の内容自体が著しく不合理,不公平であるとの疎明もないことからすると,本件において,前にした本件遺産分割協議の内容を考慮しつつ残余の遺産を追加分割することによって,相続人間の公平を図ることが可能であると認められるから,本件遺産分割協議は有効と解することができる。
エ以上のとおり,亡Aが死亡当時その名義で所有していた本件遺産株については,本件遺産分割協議によって国立学園に寄付されているというほかないから,亡Aの未分割の遺産とはいうことはできず,債権者が本件遺産株の持分を有していると認めることはできない。
(3)本件名義株について
ア亡Aに帰属する名義株の存在について
(ア)亡Aは,昭和15年6月3日の時点において,13万8539株のコクド株を有していた。
(甲6)
元プリンスホテル常務取締役であるZは,父から聞いた話として,昭和31年から昭和35年にかけて,a及びbが亡Aの指示を受けて,丸荘証券を通じて,90パーセント以上のコクド株を買い集めた旨陳述する。
(甲14)
また,亡Aの甥であり,元コクド代表取締役であるOは,昭和32年ころから,新株券発行の際株券の引換えに訪れた株主と買取交渉することによって,コクド株を買い集めていたし,昭和35年ころまで丸荘証券を通じて箱根土地株式会社時代の株主からコクド株を買い集めていた旨陳述し,亡Aの死亡のころにコクド総務担当常務取締役であったcから聞いた話として,亡Aの死亡当時,亡Aが96パーセントのコクド株を有していた旨陳述する。
(甲
9)
これらの陳述に加え,前記第2の2(1)ウのとおり,コクドにおいては,昭和36年に資本の額を約2倍とする有償増資が行われており,亡Aが大量のコクド株を取得する機会があったことを併せ考えれば,株式数は確定し得ないものの,亡Aは,死亡当時に,自ら名義人となっていた本件遺産株のほかに,相当の割合の株式を所有するに至っていたことを一応認めることができる。
(イ)Oは,昭和33年におけるコクドの株主名簿に記載された父(5000株),母(200株),妹(100株),自己(50株)及び弟(50株)名義のコクド株について,名義株である旨陳述し,自ら又は父母兄弟はコクドの実質的な株主になったことはない,昭和35年ころまでに買い集めた株は,亡Aの指示により従業員名義の株とした旨陳述し,また,元コクド代表取締役である父から聞いた話として,亡Aが自己の株式を従業員名義としていたのは,破産した場合や事故が生じた場合にトラブルに巻き込まれないことと,事業に関係ない立場で政治家として活動するためであった旨陳述する。
(甲9,10)
亡Aの書生として亡A邸で同居していた者であり,元西洋環境会長であるPは,昭和36年ころ,コクド株の管理を担当していたYから名義上の株主となる依頼を受け,Yに指示された金額を振込んだところ,後日,Yから説明があったとおり返金を受けた,その後配当金が振り込まれたのでYに確認すると,名義の借り賃だと説明を受けた,現在名義人ではないが,株を譲渡したり代金を受け取ったことはないので,Y又は元コクド監査役であるd(以下「d」という。)により知らない間に名義が付け替えられたと思う旨陳述する。
(甲15)
元コクド課長であるQも,亡Aの生前,コクド株の名義人とされていたが,譲渡を受けたり代金を支払ったことはなく,名義株であった旨陳述する。
(甲16)
また,元コクド常務取締役であるW,元プリンスホテル代表取締役であるU,元プリンスホテル常務取締役であるBも,亡Aの生前における名義株の存在を指摘している。
(甲17,18,23,25,乙61,82)
O,P及びQは,いずれも,亡Aの側近として勤務した者であり,また,コクド又は関連会社の中枢において経営に関与した者であって,その陳述は自然であり,かつ,同人らが債務者に不利益な陳述を行うべき理由は認められないことから,同人らの陳述は信用性を有するものと解することができる。
また,Wらは,亡A死亡後に株主名簿上の株主となった者であって,亡A死亡当時,亡Aが有する他人名義の株式が存在していたことについては,同人らが直接体験した事実ではなく,伝聞にすぎないものの,下記イに判示するとおり大筋において信用性を有するものと解して妨げない。
(ウ)コクドは,昭和39年当時,西武鉄道株の約80パーセントを所有していたところ,その中には,個人名義であったものの,実質的にはコクドが所有していた株式(以下「コクド管理株」という。)が多数存在し,コクド所有株式の約75パーセントに及んでいた。
また,当時,個人名義の株式も含め,コクドの所有する西武鉄道株は,すべて広尾に存在した亡Aの自宅で管理されていた。
西武鉄道の調査によれば,これらの株主名簿上の名義人のほぼ全てが,自分の名前が株式として用いられているとの認識はなかったと思われるとされている。
(甲5
1)
上記調査によれば,このような所有形態が採られた理由は不明であるとされているが,亡Aが実質的に支配していた西武鉄道について,従業員名義の株式が名義貸しであったことからすると,コクドについても,従業員名義の株式が名義貸しであったと推測することは不合理とはいえない。
(エ)亡Aはe家の繁栄を最優先課題ととらえていたことが窺われること(甲6,7)からすると,亡Aが,買い集めたコクド株を従業員の名義としたことをもって,真実,従業員の所有とする意識であったと推測することも困難である。
(オ)これらの事実によれば,株式数は確定し得ないものの,亡A死亡当時,亡Aは,自ら名義人となっていた本件遺産株のほかに,相当の割合の株式を所有するに至っており,株主名簿上従業員名義であった株式については,その少なからぬ部分が亡Aのための名義貸しであったことが一応認められる。
イ亡A死亡後の従業員間の取引について
(ア)aOは,昭和49年当時,株主名簿上5万3620株の株主となっているが,どのような経緯で自分の名義となったのかはわからないし,誰かからコクド株を譲り受ける契約をしたことはない,昭和52年ころコクド常務取締役であったWから名義を他の者に移す旨の指示を受け,1株100円で計算した536万2000円の振込みを受けたが,そのころ同額をdに返還した,コクドの名義株は,名義人が退職したり,死亡した時に次の世代の役員や社員にJの選定で順送りに名義を割り当てられていた旨陳述する。
(甲9,13)
Qは,昭和43年ころ,dから3000株の名義人となることを依頼され,手元に資金がなかったため,dからあらかじめ約30万円を受け取り,その後同額を振り込んだ,定年退職した昭和57年ころdから名義を返還するよう指示を受け,約37万円の振込みを受けたが,約1週間後に同額をdに返還した,コクドの従業員が自分の資金を出してコクド株を所有していることはない旨陳述する。
(甲16)
亡Aの書生として亡A邸で同居していた者であり,元コクド常務取締役であったWは,知らないうちに約2万株の名義人とされており,契約書を作成したり,売買代金を支払ったことはない,コクド株の管理は,Yからdが引き継いで行っていた,平成9年ころ名義を返還することになり,dから430万3600円の振込みを受けたが,その後同額をdに返還した,コクド株のことは,Jとdが決めて取り仕切っていた旨陳述する。
(甲17,18)
元プリンスホテル代表取締役であるUは,昭和50年2月ころ,Jからコクド株を自分名義に付け替える旨の指示を受け,dから指示された249万円余りを支払ったが,その後dから同額の払戻しを受けており,実質的な株主となった認識はない,平成7年3月ころdから名義を他に付け替えるので,代金の振込を受けたら返金するようにとの旨の指示を受けた,コクド株の管理はdが行っていたが,誰に名義を割り当てるかは,fとXが案を作成してJの了承を得ていた旨陳述する。
(甲23,乙82)
元西武鉄道社長であり,旧国友会の理事長であったXも,昭和40年代初めころ,コクド株の名義人となり,その代金については入金後に返還を受けるという手続をしたこと,その後株数が増え,3万株となったが,自らはコクドの実質的な株主になったことはないこと,コクド株の名義人の選任は,dがコクド幹部と相談して決めており,Xは,昭和48年ころから,dらが作成した候補者リストに旧国友会の名目上の理事長として判を押していたことを認めている。
(甲61の1,2,甲62,64)
また,元プリンスホテル取締役であるR,元西武カナダ社長であるS,元プリンスホテル取締役であるT,元西武商事取締役であるV,元プリンスホテル常務取締役であるB,元プリンスホテル取締役であるC,プリンスホテル代表取締役であるDも同様に,自己名義のコクド株は名義貸しであり,自らはコクドの実質的な株主になったことはないこと,名義人となるに際してはdから指示された額の代金を支払ったが,その後dから同額の払戻しを受け,逆に名義人でなくなる際には代金の振込みを受けたが,その後同額をdに返還したことなどを陳述している。
(甲19ないし22,24ないし26,28ないし
30,41,乙61ないし63,80ないし83)
bコクドは,長年にわたり,その株券のほとんどを名義上の株主に引き渡すことなく,会社内の金庫で管理しており,現在に至るまでそうした状態が継続している。
なお,平成16年からは,株主より株券不所持の申出を受けて株券不発行とし(商法226条ノ2第1項),平成17年7月15日からは,定款に株券を不発行とする旨定めて株券廃止会社となった(商法206条ノ2第1項)。
(甲5,9,23,32,乙110)
c西武グループ経営改革委員会は,客観的に調査を行う目的で外部の弁護士事務所にコクド株の帰属に関する調査を委託し,平成17年1月21日にその調査結果(以下「経営改革委員会調査結果」という。)を公表したが,その中には,関係帳票の検討や従業員などに対するヒアリング調査の結果,平成15年4月以前については,株式購入者はいったん購入代金を支払うものの,同額の金銭を後日返却される運用がされていたこと,平成16年12月15日時点において,株式購入代金が返金されている可能性があり,又は株式取得対価の支払が確認できなかったため所有者不明と判断された株式が,コクド株総合計2099株のうち1016株から1096株(48.4パーセントから52.2パーセント)あったこと,役員持株会及び従業員持株会のメンバーに対する電話照会の結果でも,合計886株(42.2パーセント)のうちの約3分の2(28.1パーセント)の株主が購入代金の返還を受けていたと回答したことの報告がある。
(甲53の1,2,甲106,乙110,111)
d以上のとおり,コクド又は西武鉄道の中枢において経営に関与した役員又は従業員が自らの名義となっている株式について名義株であることを認めていること,コクド株の株券のほとんどはコクドにより管理され,また,株式購入者が支払った購入代金は当該株主に返還されているなど,株主名簿上の株主が真実の株主であれば考え難い運用がされていることを併せ考えると,本件名義株については,亡A死亡後,従業員間で名義書換が行われているが,その少なからぬ部分については,売買を仮装した名義貸しであったことが窺われるということができる。
(イ)これに対し,債務者は,上記の名義貸しであることを認めている株主名簿上の株主のうち,Q,R,S,T,U,V,W,X,B,C及びDについて,株式売買取引書,株式名義書換請求書,領収書の作成の有無等客観的証拠に反する部分があり信用することができない旨主張し,dは,これに沿う陳述(乙11)をする。
確かに一部に売買契約書の作成の有無等客観的証拠と反する部分が存するものであることは否定できないものの,同人らの陳述が株主名簿に記載された時期より相当期間経過後のものであることを考慮すると,そうした点をもって同人らの陳述の信用性を否定することは相当ではない。
また,同人らが債務者に不利益な陳述を行うべき理由も特に認められないことから,同人らの陳述は大筋において信用性を有するものと解して妨げない。
dの陳述のうち,上記判断に反する部分は,(ア)に認定の各陳述に照らして採用することができない。
(ウ)次に,債務者は,役員持株会「国友会」名義の株式及び社員持株会名義の株式については,従業員持株制度に基づく株式であるから,名義人である役員又は従業員に株主としての意識がなくとも問題はないし,株主名簿上の株主が支払った株式購入代金と同額の金銭をその後まもなくdが同人に対して払い戻したことについては,将来なされるであろう株式譲渡に係る売買代金の先払いであると主張し,dは,これに沿う陳述をする。
また,債務者は,コクドでは,株主名簿上の株主に株主総会招集通知を発して株主総会における議決権を行使させ,配当金を支払っているから,西武鉄道のコクド管理株とは異なると主張する。
なるほど,疎明資料(乙14,40,42,45,47,49,50,53,57,79,88,107,108)によれば,コクドは,株主名簿上の株主らに対し,株主総会の招集通知を発して株主総会における議決権を行使させ,配当金を支払っていたことを一応認めることができ,また,債権者外3名が現在の株主名簿上の株主らを被告として,債権者外3名がコクド株につき持分を有することの確認を求めた別訴株式持分権確認訴訟(東京地方裁判所平成17年(ワ)第2673号,同第4144号,同第10072号及び同第19332号)において,被告のうち,株主数にして合計105名,株式数にして合計1526株の者は,コクド株の購入に当たり購入代金を支払って株主となったものであり,自らは実質的な株主である旨主張して,債権者外3名の請求を争っているところ,これらの事実は,債務者の主張に沿うものということができる。
しかしながら,売買契約の本質は,対象物の所有権を移転する売買当事者の意思と,その対価としての売買代金の支払というべきところ,自らの意思で株式を取得した者に株主としての意識がないということは通常ではあり得ないことであるし,株主名簿に記載された名義人の中には,株式購入代金の支払の後,同額の金銭の払戻しを受けている一方で,次の名義人への交替に際しては,株式売渡代金の交付を受けた後,速やかに同額の金銭を返金している者が少なくないことからすると,そのような株式名義人については,自ら売買代金の負担をして株式を取得したものとは到底解することができない。
dによる購入代金の払戻しが将来の売買代金の先払いであるとの債務者の主張及びdの陳述は,上記のとおり,次の名義人への交替に際して改めて売買代金の支払を受けている事実と照らして,およそ不合理といわざるを得ない。
また,株主総会における議決権行使や配当金の受領に関し,(ア)aに掲記の株主名簿上の株主らは,株主総会への出席はdの指示によるものであり,配当金は名義借料として受領していた旨を概ね陳述しており,これらの陳述に照らせば,株主名簿上の株主らによる株主総会における議決権行使や配当金の受領の事実は,上記判断を覆すものではない。
(エ)さらに,債務者は,現在の名義人が善意取得している可能性を指摘しているが,そうした可能性を一般的に主張するに止まり,現在の名義人が株式を取得した個々の取引については何ら具体的主張がないし,疎明を提出していない。
ウ本件名義株の帰属について
以上によれば,亡A死亡当時の従業員又は役員名義の株式の中に亡Aの株式があったこと(すなわち,本件名義株が存在したこと)については,一応の疎明があるということができる。
また,この本件名義株については,亡A死亡後,従業員間で名義書換が行われているが,その少なからぬ部分については,売買を仮装した名義貸しであったことが窺われると一応いうことができる。
もっとも,亡A死亡後に大規模な増資が行われていること,昭和45年以降,Jが大量のコクド株を買い集めていることなどを考慮すると,亡Aの本件名義株が,現在,誰の名義になっている株式であるのかについては直ちに確定することができず,株券の裏書や株主名簿の記載からその来歴をたどって明らかにする必要がある。
さらに,亡Aの死亡から現在に至るまで40年以上の間に当該株式の譲渡による善意取得が生じた可能性も否定できないことを考慮すると,亡A死亡当時,従業員又は役員名義の株式の中に亡Aの株式が存在していたことから,直ちに,それらの株式全てについて,亡Aの遺産として債権者ら相続人が持分を有するとまでいうことはできない。
こうしたことから,その内容や株式数等の具体的内容を確定し得ないものの,少なくとも相当数の本件名義株が存在すること自体については,疎明がされたものといわなければならない。
エ株主名簿の効力について
ところで,株主名簿の効力として,株主名簿に記載された株主は,実質的権利を証明しないで,株主の権利を行使することができ,その反映として,会社は,株主名簿の記載に基づいて株主名簿上の株主に権利の行使を認めれば,その者が真実の株主でなかった場合にも免責される。
もっとも,株主名簿の免責的効力も絶対的なものではなく,会社が,株主名簿上の株主が無権利者である名義貸与人であり,他に真実の株主がいることを知り,又は重大な過失により知らずに,無権利者である名義貸与人に権利の行使を認めたときには,免責されないこととなると解すべきである。
これを本件についてみると,経営改革委員会調査結果(乙110,111)によれば,平成16年12月15日時点のコクドの株主名簿上の主な株主の構成は,発行済株式総数2099株のうち,1Jが757株(36.1パーセント),2役員持株会「国友会」が224株(10.1パーセント),3社員持株会が662株(31.5パーセント),4役員OB・関係会社役員が315株,スポーツ施設経営会社が29株,完全外部株主が1株,その他が111株の合計2099株であったところ,平成16年12月15日時点において,株式購入代金が返金されている可能性があり,又は株式取得対価の支払が確認できなかったため所有者不明と判断された株式が48.4パーセントから52.2パーセントあったことが一応認められる。
これに対し,債務者は,本件事件の審尋手続において,コクドの主な株主の構成は,1社員持株会が778株(37.1パーセント),2Jが757株(36.1パーセント),3役員持株会「国友会」が234株(11.1パーセント)等であり,かつ,名義株は存在しておらずすべて実質的な株主であると主張しており,これによれば,コクド社員持株会の株式数は数か月という短期間のうちに約110株も増加していることになる。
また,債務者は,上記経営改革委員会調査結果発表時に所有者不明とされていたコクド株について,別途弁護士事務所に委託して調査を行ったところ,名義株が存在しない結果となった旨主張している。
債務者から当該調査の結果が明らかにされていないため,どのような経過で所有者が判明するに至ったのかは不明であるが,上記のように極めて短期間のうちに調査結果が変更されたことについては,不自然さを否定することができないといわざるを得ない。
仮に,西武グループ経営改革委員会又はコクドによる調査の過程において,株主が名義貸与人で実質的な株主ではないと自認していたにもかかわらず,コクドにおいて,真実の株主の解明のための調査を怠り,これらの名義貸与人に対して積極的に株主としての権利行使をさせたことが認められる場合には,無権利者である名義貸与人に議決権の行使を認めたことが,重大な過失に該当する余地があるというべきである(この点に関して,プリンスホテル社長fが,平成16年11月ころから,Cに対し,コクド株の売買の相手方氏名,株数,時期を記載した手書きのリストを渡し,そのころ,コクド代表取締役gが,Bに対し,「いつかコクド株のことで譲渡人を尋ねられたら名前を言えるようにしてほしい」と述べていたこと(甲30),fが,平成17年2月ころ,Bに対し,B名義の株主は自分であると主張してほしい旨依頼したこと(甲26),債務者が,同年3月ころ,Cに対し,C名義の株式は自分のものではないとの考えの翻意を促したこと(甲29)が一応認められるところ,これらの事実によれば,他の名義人に対しても同様の働きかけが行われたことを推認することができ,このことがコクド及び債務者が主張する上記株主の調査の結論に影響を及ぼしている可能性は否定できない。)。
オ小括
債権者が本件名義株について名義書換請求をしていないことは,当事者間に争いがなく,また,本件名義株について,本件事件の平成17年11月4日付け第7主張書面の提出に至るまで,現在の株主名簿上のどの株主のどの株式に当たるのかを特定した主張をしておらず,コクドに対し,株主持分権確認訴訟を提起しているわけでもないから,コクドにおいて,本件名義株について,債権者の名義書換請求を不当拒絶したと実質的に同視し得る状況にあったということもできない。
しかしながら,会社は,名義書換未了であっても,基準日以前から株式を取得した者を株主と認め,同人の権利行使を認容することは差し支えないものであり(最高裁昭和28年(オ)第1430号同30年10月20日第一小法廷判決・民集9巻11号1657頁参照),今後,債権者が,本件株主総会の決議の瑕疵を争う訴訟等の中で,コクドに対して,自らの持分権を主張する株式を特定した上で準共有株主としての地位を立証し,さらに,当該株式について,コクドにおいて株主名簿上の株主が無権利者である名義貸与人であり,他に真実の株主がいることを知り,又は重過失により知らずに,無権利者である名義貸与人に議決権の行使を認めたことを立証した場合には,その株式について,コクドは株主名簿上の株主に招集通知を発したからといって免責されるものではない。
(4)まとめ
以上によれば,その具体的内容を確定するには至らないが,相当数の本件名義株の存在について一応の疎明があり,今後,債権者がコクドとの間で,債権者ら亡Aの相続人が準共有株主であり,コクドが株主名簿上の株主が無権利者であることを知り,又は重過失により知らなかったことを立証した場合,本件株主総会の決議は,真実の株主でない者に議決権の行使を認めた点において手続上軽微とはいえない瑕疵を帯びることになる余地があることは否定することができないし,少なくとも本件認諾株49株については,真実の株主に招集通知を発しないまま,実質的権利を有しない名義上の株主にその権利を行使させる結果を招来することになり,本件株主総会については手続上の違法が生ずることについて疎明があることを肯定することができる。
3争点(2)イ(債務者の善管注意義務違反)について
(1)債権者は,真実の株主が誰であるかが株式持分権確認請求訴訟において係争中であり,同訴訟において債権者らが真実の株主であると判断される可能性が十分ある現時点において,株主名簿上の株主を株主と取り扱い,株式移転を含む本件再編スキームを実行することは不合理であること,コクドは,本件再編スキームの必要性について事実調査を一切行っていないか,又は仮に何らかの調査を行っていたとしても,オーナー等持株会社の設立は,コクドの大株主であるJのコクドに対する影響力を排除するという目的を達成するために,Jとは無関係の債権者らから,西武グループの中核企業たる事業会社としてのコクドの株主という地位を一時にして奪うものであるから,著しく不合理であること,本件再編スキームにおける西武鉄道株の評価額は明らかに不合理であることから,株式交換又は株式移転の決議のための本件株主総会を開催することは,取締役の経営判断の裁量を逸脱し善管注意義務(商法254条ノ3)に違反すると主張する。
(2)本件株主総会においては株式移転決議が予定されるところ,本件株式移転決議が可決され,その効力が生ずれば,完全子会社となるコクドの株主は,コクドの株主としての地位を喪失し,完全親会社となるオーナー等持株会社の株主となるのであって,株主と従来との会社との関係は,親会社を通じた関係に後退することになる。
そこで,株式移転に関しては,とりわけ株主の保護の要請が高く,株式移転決議には,通常の決議要件より厳格な要件が規定される特別決議が要求され(商法365条1項,3項,353条5項,343条),また,株式移転決議に反対した株主には株式買取請求権が認められる(商法371条2項,355条)こととされている。
さらに,本件株式移転決議は,その後に計画される本件再編スキームの重要な一部であるところ,本件再編スキームは,コクド及びその関連会社の今後の経営主体,経営方針を大きく変更する内容のものとなっている。
こうしたことから,本件株式移転決議は,コクドの存立基盤及び株主の地位に大きな変更を生じさせるとりわけ重要な決議であるということができる。
こうした事情の下においては,取締役としては,株主名簿上の株主が実質的な株主でないことについて疑いが生じた場合には,その株主に権利の行使を認めることにより株主総会における決議等会社の行為の効力が後に覆滅することがないよう,株主権の帰属について必要な調査を尽くすべき注意義務を負うというべきである。
他方,会社の存立及び継続にとって緊急に事業再編を実施することが必要とされる状況において,一部の株式にその帰属が不明なものが存在する場合に,事業再編のため必要とされる株主総会決議の基準日までに調査を尽くしてもなおその帰属が明らかとならないときには,株主名簿の記載にしたがって権利行使を認めざるを得ないことがあることも十分首肯し得るところである。
(3)そして,株主総会における決議の前提となる株主権の帰属に関する調査について,取締役に求められる注意義務の程度を判断するに際しては,株主総会決議当時の状況に照らして,当該決議の重要性(決議によって株主及び会社に生ずる影響の大きさ),株主権の帰属に関する調査の容易性,後にそれが覆滅する蓋然性とその場合に会社に生ずる損害の程度,会社にとって当該決議を行うべき緊急性(予定された決議を行わなければ時機を失し会社が大きな損害を被ることになるかどうか)を総合的に考慮することが相当である。
本件については,本件株式移転決議がコクド及び株主にとってとりわけ重要な決議であることは前示のとおりである。
また,経営改革委員会調査結果においては,所有者不明の株式が48.4パーセントから52.2パーセントあったとされていたのに対し,本件審尋手続において,債務者は,コクドに名義株は存在せず,全て実質的な株主であると主張しており,数か月という短期間のうちに経営改革委員会により所有者不明の株式とされた株式についてすべてコクド社員持株会の株式であると判断するに至っていることが一応認められる。
しかしながら,これらの所有者不明であったコクド株について株主権の帰属の調査に必要な株券及び株主名簿はほぼコクドにおいて保管されているため,調査の容易性については未だ不明といわざるを得ない。
また,仮に本件株式移転決議が覆滅した場合には会社に回復し難い損害が発生するといえるとしても,本件認諾株については招集手続の違法が生ずることについて疎明があることは前記のとおりであるが,所有者不明の株式の帰属に関するコクドによる調査経過及びその内容が明らかとされていないため,本件株式移転決議の覆滅の蓋然性について,現時点において,当裁判所が的確に判断することは困難である。
さらに,コクドの債務者区分が金融機関から「破綻懸念先」に引き下げられていることは前記第2の2(7)イ認定のとおりであり,そうであれば,コクドにおいて,本件再編スキームの前提となる本件株式移転決議を行うべき緊急性があることも否定できない。
そうすると,本件において,株主名簿上の株主に議決権行使を認めるという債務者の判断が,直ちに善管注意義務に違反すると断ずるまでの疎明があるということはできない。
4争点(3)(会社の回復すべからざる損害)及び争点(4)(保全の必要性)について(1)本件株主総会開催禁止の仮処分は,株主による取締役の違法行為差止請求権を本案とするものであるところ,差止請求が認められるための要件として「会社ニ回復スベカラザル損害ヲ生ズル虞」(商法272条)が必要とされている。
また,民事保全法は,仮の地位を定める仮処分命令の必要性の要件として「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため」であることを規定している(民事保全法23条2項)。
ところで,株主総会が会社の意思決定を行う最高機関であること,そのような仮処分が認められることになると,他の株主の株主権行使の機会を奪う結果をもたらすこと,株主総会の決議取消しの訴え(商法247条)を提起することにより事後的に是正することが可能であること(なお,本件は株式移転を会議の目的とする株主総会であるから,株式移転の効力が発生した後においては株式移転無効の訴え(商法372条)によることになる。),そもそも,会社の意思は,株主相互の意見交換等を経て最終的には多数決で決せられるべきものであって,少数派の株主は,多数派の株主の意見を受け入れざるを得ないという側面があることなどの事情にかんがみれば,満足的仮処分という性質を有する株主総会開催禁止の仮処分命令を発するにあたっての保全の必要性の判断は,特に慎重に行われるべきものであり,会社に回復困難な重大な損害を被らせるおそれがあることが要求されることになるが,その内容は,商法272条所定の差止請求の要件である「会社ニ回復スベカラザル損害ヲ生ズル虞」と同内容の要件と解すべきである。
そして,その要件が肯定されるには,当該株主総会の開催を許すと,決議の成否を左右し得る議決権を有する株主が決議から違法に排除されることになるなどのために,違法な又は著しく不公正な方法で決議がされることとなる高度の蓋然性があり,さらにその結果,会社に回復困難な重大な損害を被らせ,これを回避するために開催を禁止する緊急の必要性があることが要求されるものと解するのが相当である(東京高等裁判所平成17年(ラ)第1012号同17年6月28日決定9頁参照)。
(2)これを本件についてみると,債権者は,会社の回復すべからざる損害として,1本件株式移転決議が無効になれば,コクドに対する出資を予定していたファンド及び関係各企業等から損害賠償請求が行われ,社会的信用を喪失し,本件再編スキームを実現するために用いた費用は無意味化することにより,コクドに重大な損害が生じること,2本件再編スキームでは,コクドが保有する西武鉄道株の評価額を1株当たり700円前後とすることを前提として,コクドへの増資額が決定され,また,西武鉄道株の売却が行われようとしているところ,債権者及びHは,西武鉄道株の評価額を1株当たり1150円から1300円とする再編案の提案をしており,他のファンドからも1000円以上での提案があるから,西武鉄道株を低く評価して増資,売却することにより,コクドに損害が生じること,3コクドは,現在,西武グループ各企業の頂点に立つ持株会社としてグループ全体に対する圧倒的な影響力を有しているが,本件再編スキームによれば西武グループ持株会社の子会社となり,コクドの企業価値が低下することを主張するとともに,コクドは実質的には債務超過にはなく,不採算事業からの撤退や資産売却によっても経営の健全化を図ることは可能であり,本件再編スキームを実施すべき必要性・緊急性は認められないと主張する。
(3)そこで検討するに,1に関しては,本件再編スキームにおいて,本件株式移転決議に基づく株式移転(以下「本件株式移転」という。)の後に,コクドによる増資と西武鉄道株の売却が予定されているところ,本件株式移転決議が行われた場合,その決議が軽微ならざる瑕疵を帯びる可能性があることは前判示のとおりであり,そうであれば,決議後に債権者から株式移転無効の訴えが提起され,認容された場合には,事後に本件株式移転が無効となる可能性は否定できない。
しかしながら,本件株式移転が無効とされても,その結果コクドに対する増資が直ちに無効となるものではないし,また,仮にコクドに対する出資が本件株式移転を前提とするものであるとしても,債権者から多数の株主名簿上の株主らに対し株式持分権確認訴訟が提起されるとともに,本件株主総会開催禁止の仮処分の申立てがされていることは公知の事実であるから,出資者としては,本件株式移転が事後に無効となるおそれを有するものであることは当然に了知した上で出資を行うものと推認でき,そうであれば,会社が出資者から損害賠償請求を受けることについて高度の疎明があるということはできない。
次に,2に関しては,仮に,コクドの予定する増資が,債権者の主張のとおり西武鉄道株の評価額を1株当たり700円前後とすることを前提とするものであり,債権者及びHの提案する再編案の前提となる評価より低いとしても,資金調達を目的とする増資は,それが特に有利なる価額による第三者割当発行でない限り取締役会の権限内の行為であるところ,コクドの予定する新株の発行価額が公正な価額を下回ることについての疎明はないから,増資によりコクドに損害が発生するということはできない。
また,コクドが売却を予定する西武鉄道株の評価額が債権者の主張のとおりであり,債権者らが買取りを提案する評価額より低いとしても,コクドによる西武鉄道株の売却は,本件株式移転決議とは別個の行為であることからすると,西武鉄道株の売却を阻止するための手段として本件株式移転決議を会議の目的とする本件株主総会の開催禁止を求めることは困難といわざるを得ず,西武鉄道株の売却自体が本件株主総会の開催によってコクドが被る損害であるとは認め難いというほかない。
また,3に関しては,本件再編スキームは,コクドに対する増資,西武鉄道株の売却等によりコクドが必要とする設備投資等の資金を調達するとともに,西武鉄道を含めたグループ会社全体での事業再編を目的とするものであるところ,こうした事業再編によりコクド自身の企業価値がどのように変化するかについては,今後の景気動向,国民の所得や消費性向の変化などの事業環境によって左右されるものであるから,現時点においてコクドの企業価値が一概に低下すると断ずることは困難である。
仮に,本件再編スキームが実施された後に本件株式移転が無効とされた場合にはコクドに回復し難い損害が生ずるとしても,亡A死亡当時の従業員名義の株式の中に亡Aの株式があることについて一応の疎明はあるということはできるものの,亡A死亡後に増資が行われていること,昭和45年以降にJが大量のコクド株を買い集めていることを考慮すると,債権者の主張する株式が亡Aの株式であったか否かについて,株券の裏書や株主名簿の記載からその来歴をたどって明らかにする必要があり,亡Aの死亡から現在に至るまで40年以上の間に当該株式の譲渡による善意取得が生じた可能性も否定できないから,本件株式移転決議が後の訴訟で無効とされることについて高度の疎明があるとまでいうことはできない。
(4)まとめ
以上によれば,本件株主総会が開催されることによって,コクドに回復困難な重大な損害を被らせるということについて疎明があったということはできないし,また,これを回避するために本件株主総会の開催を禁止する緊急の必要性があることについても疎明があるともいえないから,本件申立ては,「会社ニ回復スベカラザル損害ヲ生ズル虞」(商法272条)及び「債権者に生ずる著しい損害」(民事保全法23条2項)の各要件を欠くものであるといわざるを得ない。

第4結論

以上のとおりであって,本件株主総会に手続上の違法が生ずることについては疎明があるものの,本件株主総会が開催されることによってコクドに回復困難な重大な損害を被らせることについては疎明がなく,本件申立ては,被保全権利及び保全の必要性についての疎明がないことに帰するから,これを却下することとし,主文のとおり決定する。

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